ユーロ高はつらいよ
各国の通貨当局者の間では、「おいおい、マルクのように安定した通貨を廃止して、こんな通貨に切り替えて大丈夫かね」という、心配論もあった。
ところが、ここ数年間はユーロ高が続いており、今年に入ってからは、一時1ユーロが約160円に相当した。
8年間で、ユーロが円に対して65%も高くなったことになる。
ユーロは、ドルに並んで国際的な基軸通貨としての地位を確立した。さらに、米国のドルに対してもユーロは強さを保っている。
このユーロ高の原因としては、いくつかの説があげられている。アラブの投資家がドルを嫌って、ユーロに資金を移しているという説、また中国がユーロに積極的に投資しているという噂。
中国の外貨準備高は1兆ドルに達しており、その資金がどこへ動くかは、今後も極めて注目される。また日本の機関投資家が、ユーロ債を積極的に買っているという説も流れている。
ユーロ高は、日本から欧州に来る観光客やビジネスマンには、悩みの種である。
ドイツがマルクを使っていた頃は、1マルクが約50円だったので、「ドイツは物価が安い」と感じたものだが、今ではブランド商品を買う日本人観光客も減ってきたようだ。さらに、ユーロ安の頃に、欧州大陸に生産拠点を開いた企業にとっては、ドイツやフランスで製品を作って、英国や米国などの非ユーロ圏に輸出すると、価格競争力が弱くなってしまう。
ドイツで車を組み立てて、米国や日本に輸出しているポルシェやBMWのようなメーカーには、ユーロ高は大きな頭痛の種だ。米国や日本から欧州に派遣されている駐在員で、給料がドルや円で支給されている人たちは、ユーロ高によって手取り賃金が減ってしまうので、悲鳴を上げている。
だが欧州では景気が回復しつつあるため、欧州中央銀行は3月初めに公定金利を3・5%から3・75%に引き上げた。銀行の定期預金は、最もリスクが低い投資手段だが、それでも1年間お金をねかせておくだけで、4・1%の利子がつく。
このため、今後はユーロを買う投資家がさらに増え、ユーロ高は一層進むものと予想される。日本から欧州に旅行する人にとっては、当分冬の時代が続きそうである。
(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹)筆者ホームページ http://www.tkumagai.de
保険毎日新聞 2007年2月